「申し分ない」ジャッカルは静かにうなずいた。「望みどおりの出来だ」グーサンスは喜んだ。鉄砲のエキスパートとして、彼は何よりも賛辞を好んだ。また彼は、目の前にいる客もやはり、銃に関しては一流の専門家であることを知っていた。
いい仕事。
それを他人から評価してもらえることほど嬉しいことはない。
仕事でもプライベートでも、相手が唸るほどに褒めてくれた時はこれまでの努力が報われたなぁと思う。
そういうことが頻繁にあればいいのだが、これまでの人生でも数えるほどしかない。
僕は昔高校球児だった。
チームの中での実力はイマイチで、チャンスで打てず、大事なところでエラーをするような選手だった。
夏の県大会。
相手は甲子園常連校。
明らかに超高校級の選手たちだ。
投げる球も打った打球も次元が違う。
勝てる見込みなど万に一つもないような試合だった。
当然ながら試合は惨敗だったのだが、この試合で陰ながら奇跡が起こった。
相手の4番打者(超高校級中の超高校級の選手)がとんでもない高さの内野フライを打ち上げた。
後からチームメイトが教えてくれたのだが、どうやら僕以外のメンバーは皆打球を見失っていたらしい。
あまりの打球速度と高さでどこに飛んだのかわからなかったそうだ。
でも、僕だけは空に消えていく点をはっきりと認識していた。
観客から見れば特大の内野フライ。
それをキャッチしたところで何のファインプレーでもない。
でもチームメイトの間では一人だけ「オーライ!オーライ!」と叫ぶやつに全信頼を置くしかなかったようだ。
ここをしっかりキャッチした時、みんなから驚きと安堵の表情を向けられた。
その後、2年生ながら巧みなバットコントロールでヒットを量産する好打者に打順が回る。
彼は右バッターだ。
1塁には既にランナーが一人いて、先ほどの内野フライで1アウトである。
僕はセカンド。
やや2塁寄りの位置で構える。
初球、これまたとんでもない打球速度のセカンドゴロが飛んできた。
しっかり上から叩きつけるように打っているためだろうが、地を這うようなゴロとはこういうものなのだろう。
誰もがその強烈な打球を見て僕がエラーをするだろうことは容易に想像できた。
でも、ここも僕は奇跡的にもキャッチし、なおかつ2塁上で待っているショートに的確な送球をすることができた。
自分でも不思議なくらいスムーズに動けたのである。
自らの意識でさえグラブから弾く瞬間の映像が頭を流れるほどだったが、身体の方がちゃんと反応していたようだ。
相手スタンドから轟音のようなヤジを飛ばす控え選手たちも、僕がゲッツーを決めた後はすっかり黙り込んでしまった。
試合は圧倒的な差で負けてしまったのだが、この試合で陰ながらみんなの心に残るプレーを僕はした。
社会人になり、もうあれから20年も経つが、いまだにあの試合の話題になると「よく捕ったね」と声をかけられる。
いい仕事だったのだと思う。
このプレーがきっかけで戦況が変わるとか、競り勝つという状況ならもっとドラマチックだったかもしれない。
でも、自分の中でもそれまでひたむきに守備の練習をしてきた成果が報われた瞬間でもあった。
特大・強烈な打球とは言え、どちらも記録の上では単なる内野フライと内野ゴロである。
何の美辞麗句とも縁がない。
それでもチームメイトの心にはこの何でもないプレーが刺さった瞬間だったことは今でも嬉しい記憶の一つである。
日々廃れていく心だが、こういうことを思い出しつつ、あの最高の瞬間を味わえるよう気を取り直して取り組まなければと思うのである。